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  • 執筆者の写真plusrelax

ブログセミナー④ みなさんから頂戴したメールをもとに

更新日:2020年9月12日


前回まで↓のウィンスロー・ホーマーの《むち打ち》という作品を見てきました。

何か「気がつくこと」があれば、お知らせくださいと呼びかけていたところ、何人かの方からメールをいただきました! やはり、反応があると嬉しいですね。せっかくなので、今回はみなさんからのメールをもとに話を進めたいと思います。


ウィンスロー・ホーマー 《むち打ち》 1872 メトロポリタン美術館



最初にお断りしておかなくてはならないのは、今回お送りくださったメールは、内容のレベルがかなり高かったということです。そのため、ご紹介したら、ほかの方々には「そんなことまで私はとても気づけなかった」と、かえって萎縮させかねない恐れがあると危惧を覚えたほどです。


ということで、以下の内容は、かなり「できすぎ」です。みんながみんな、こんなことまで気づく必要はまったくありません。もっと単純なこと、もっと浅いことでも全然かまいませんので、あまり心配せずにご覧いただければ幸いです。


  *


さて、みなさんが送ってくださった「気がつくこと」は、次のようなものでした。


1 タイトルに違和感がある

2 左端の子が転んでいるのが不思議

3 転んだ子がいじめられているようにも見える

4 転んだ子だけが靴を履いているのはどうして?

5 少年たちは思春期の少し手前

6 少年たちの汗ばむような肌の匂いや体温の高さに少し息苦しい感じを受ける

7 草や土、木々や建物など全体がアースカラーの色調

8 季節は春

9 中央の少年(白シャツ、帽子、上着着用)は他の少年たちよりも身長が高く、1~2歳

  年長にも見える

10 最も勢いよく飛び出したのは、左サイドの白シャツの少年だったのでは?

11 少年たちは皆それぞれ異なった様相を見せている

12 画面に垂直・水平の中心線と二本の対角線を引いてみると、中央の少年がかなり正確

  に画面のセンターに位置づけられていることがわかる


などです。


いかがでしょうか。きっと、あなたも気がついていたこともあれば、全然気づかなかったこともあったことでしょう。おそらく、ここに挙げたすべてに気づいていたという人はいないはずです。ほかの人と交流しながらアート鑑賞を楽しむと、一人では得られない「新しい視点」がもたらされるのが大きな利点です。


では、いくつかみていきましょう。


1の「タイトルに違和感がある」というのは、同感と思う人が多いのではないでしょうか。この絵は《むち打ち》という変わったタイトルが付けられています。いったい、どういう意味なのでしょうか。アメとムチの「むち打ち」なのか、追突事故をくらったときの「むち打ち」なのか、それとももっと別のことなのか。ちょっとした謎ですね(一度考えてみてください)。


4の「転んだ子だけが靴を履いている」というのは、じつは正しくありません。ほかにも靴を履いている子がいます。よく見て確認してみてください。


5と6は関係しているような気がします。5の「思春期の少し手前」らしいという気づきが、6の「肌の匂いや体温の高さに少し息苦しい感じを受ける」という印象をもたらしたのではないでしょうか。「気づき」が鑑賞を生み出すひとつの好例ですね。


9の中央の少年が他の子たちより「身長が高く、1~2歳年長にも見える」というのは、かなり細かい観察で、何となく見ていただけでは得られない認識です。あなたは、このことを明確に捉えていたでしょうか。この認識があるとないとでは、子どもたちの関係が違って見えてきそうです。


11の「少年たちは皆それぞれ異なった様相を見せている」というのも、うっかり見過ごしてしまいそうなことです。みんなで一つの遊びをしているので、つい全体として捉えてしまいますが、よく見れば、作者は一人ひとりをけっこうしっかり描き分けており、じっくり見ていくとそれぞれの個性までほのかに伝わってきます。そこまで気がつくことができれば、作品の味わいが相当違ってくることが期待されます。


そして、12の「中心線と二本の対角線を引いてみると」という声まで出てくるとは、正直、思っていませんでした。もっとあとの回でご紹介するつもりでしたが、このように「補助線を引いてみる」というのも、作品を掘り下げて鑑賞するのにとても役立つ見方です。


12では、そのことによって「中央の少年がかなり正確に画面のセンターに位置づけられている」ことが見抜かれています。


この絵はのびのびと描かれているようでいて、その実、けっこう安定感のある印象がもたらされます。それは、このように作者がかなり計算して構図を構築しているからです。子どもたちが遊んでいる図という奔放な内容であるにもかかわらず、作画的には案外保守的な性格の絵なんですね。それが見事に看破されています。


  *


さてさて、こんなに鋭い声が次々に寄せられると、私としてはタジタジです。講師のほうが鑑賞力が高いとは限りませんからね(;^ω^)。


今回メールをくださった方は、はじめから相当鑑賞力のある人たちだと思われます。多くの人はそういうわけにはいかないと思いますので、↑を読んで「自分はついていけない」などとは決して思わないでくださいね。ローマは1日にして成らず、千里の道も一歩から、というものです。あなたなりの楽しみと学びを重ねていってもらえればと思います。


メールをくださった方々、ありがとうございました。


では、今回はこのあたりで。


(藤田)

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