2/9から森美術館で「六本木クロッシング2019展:つないでみる」が始まりました。5/26までの長丁場です。
六本木クロッシングは、森美術館が3年に1度開くイベントで、そのときどきの日本の現代アートのエポックをとりまとめて見せようという、森美術館の活動のなかでも力の入った企画です。一般公開に先立って内覧会に行ってきました。
今回は25組のアーティストが紹介されていました。よくアートは世相を反映するといわれますが、それは本展にも現れていたかと。やはり「デジタル」や「AI」といった要素が多くの作品に採り入れられていました。他方、それらに対するアンチということでしょうか、あえてファニーなアナログにこだわったような作品もあり、二極化した傾向が見て取れるように思いました。いくつか作品をご紹介しましょう。
*
トップに掲げた写真は、ジュスティーヌ・エマールの《ソウル・シフト》という映像作品です。主役は《機械人間オルタ》。オルタは人工生命研究者の池上高志とロボット工学者の石黒浩が中心となって「生命とは何か」をテーマにつくったもの。それを映像作家のジュスティーヌ・エマールがビデオ作品にしました。
2体のオルタ(オルタ1とオルタ2)は、ときどきイルカのような奇声を上げながら、幾分ぎこちない動きを見せます。最初はただそれだけかと思ったのですが、見ているうちに、オルタたちの様子が幼児あるいは乳児のように見えてき、そういう眼で見ると、あたかも新しい生命体が世の中に出現し、これから成長しようとしているところに思われ、新鮮な驚きを覚えます。
思えば、AIやロボットはまさにそうしたステージにありますから、それらは“未来ある子どもたち”なのかもしれないと認識を新たにさせられました。
次に、平川紀道の《datum》。これも映像作品で、「高次元空間における美」がテーマだそうです。最初は右のような、どこかの景色が映し出されます。ところが、次の瞬間、風景の画像は砕け、細かな粒子となって流れ出し、デジタリックなイメージの奔流へと変容します。
この映像変換は作者の平川氏が演出しているのではなく、純粋にアルゴリズムの演算によってなされています。つまり、観る人へのビジュアル効果などはまったく考慮されていません。にもかかわらず、十分「美しい」と感じさせるものがあります。
現実の風景がデジタルの粒子に分解して溶け出すさまを見ていて、ふと、SFドラマ「スター・トレック」の転送装置を思い出しました。スター・トレックの転送装置は、人間や事物をデジタル信号に変換し、それをビーム伝送で遠隔地へ飛ばし、そこで再構成することによって瞬間移動を可能にするという架空の装置です。
私たち人間のような有機体と、デジタルやロボットのような無機物の境界が曖昧になっていく可能性を示唆しているようにも感じられました。
竹川宣彰の《猫オリンピック:開会式》は、約1300匹の猫がスタジアムに集結した様子のインスタレーション作品。よくぞまあ、これだけ集合させたものです。
スタジアムの真ん中には、画像ではわかりにくいかもしれませんが、魚のかたちをした大きなオブジェが置かれています。猫たちはそれを羨望の眼差しで眺めているのです。
この作品は、もちろん、東京オリンピックを念頭に置いたものでしょう。単純に人間を猫に置き換えた楽しいものと見るか、あるいは、オリンピックの狂奔も所詮は猫が魚を欲しがっている図と何も変わらないという風刺と受け留めるか、それは見る人の自由です。あなたはどう受け取るでしょうか。
*
六本木クロッシングは、上記のように森美術館が力を入れている企画なだけあって、私にはなかなかの見応えがありました。全部が全部面白いというわけにはいかないかもしれませんが、現代アートに興味がある人には訪れて損のない展覧会とおすすめできます。一度、どうですか?(F)
Comments